snsでも話題になっていた訴訟です。先日和解成立しました。
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7人死傷、サーキット提訴 事故遺族らが岡山地裁に
「岡山国際サーキット」(岡山県美作市)のレーシングコースで2017年4月、練習走行中のオートバイが次々に転倒し、7人が死傷した事故で、遺族らが16日、サーキットの運営会社と親会社のアスカ(愛知県)に対して安全管理が不十分だったとして、計約3億5千万円の損害賠償を求めて岡山地裁に提訴した。
原告は死亡した徳島県◆◆◆の○○○○さん(当時42)と岡山市△△△の□□□□さん(当時38)の遺族ら。
訴状では、1台のオートバイから漏れたオイルが路面に広がったことが事故の原因とし、サーキットが適切な場所に監視員を配置しなかったためにオイル漏れを発見できず、走行中止を知らせる赤旗での表示が遅れたと主張。現場では以前にも死亡事故があり「コースとして安全性を欠いた」としている。
代理人弁護士によると、遺族らはサーキットに安全管理の改善を求めるため提訴に踏み切ったという。
サーキット運営会社の担当者は取材に対し「コース上の監視カメラと監視員で二重チェックをしていた。事故を確認したときは赤旗を上げて危険を知らせた」と話している。
事故は昨年4月24日に発生。サーキットが発行するライセンスを持ったアマチュアらが走行中に7台が相次いで転倒し、2人が死亡、男性5人が重軽傷を負った。〔共同〕
www.nikkei.com
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www.sanyonews.jp
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美作サーキット事故訴訟が和解 運営会社1.3億円支払い
美作市滝宮の
岡山国際サーキットで2017年4月、練習走行中のオートバイ7台が転倒、7人が死傷した事故で、サーキットの安全管理に不備があったとして遺族らが運営会社(同所)などに総額約3億5千万円の損害賠償を求めた訴訟は、
岡山地裁(奥野寿則裁判長)で和解が成立した。27日、原告側弁護士が明らかにした。和解は20日付で、運営会社が原告7人に総額約1億3500万円の和解金を支払う内容。
訴状などでは、先頭の1台から漏れたオイルで後続車両がスリップするなどして転倒。男性2人が死亡、5人が重軽傷を負ったとされる。原告は、サーキット側が現場付近に監視員を配置していれば、オイル漏れを知らせる旗をすぐに表示でき、事故は回避できたと主張していた。
原告側によると、和解条項で地裁は「運営会社には旗の不
掲示に関する義務違反がある」と指摘した。
岡山市内で会見した原告側弁護士は「事実上の勝訴だが、被告は謝罪に応じておらず、原告の心が晴れるものではない」と話した。
被告側弁護士は取材に「特にコメントすることはない」と述べた。
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記事内の練習走行とはコースライセンス所持者のいわゆるスポーツ走行です。
事故が起きた枠は選手権エントリー経験者、イ
ベントレース参加者が大型バイクで走る枠です。
記事から読めるそれぞれの主張にいくつか疑問が湧いてきます。訴状と取材時のコース側の主張が微妙に食い違っていますよね。
原告主張
「サーキットが適切な場所に監視員を配置しなかったためにオイル漏れを発見できず、走行中止を知らせる赤旗での表示が遅れたと主張」
サーキット側担当者への取材時コメント
「コース上の監視カメラと監視員で二重チェックをしていた。事故を確認したときは
赤旗を上げて危険を知らせた」
そして和解条項
ん? 結局、旗の
掲示はなかったの? タイミングが遅かったの?
他にも気になる点があったので地裁へ裁判記録の閲覧をしてきました。
当事者及び利害関係者ではないので複写は不可、記録の閲覧とメモを取るのは可能でした。
事故時の状況
天気:晴れ
路面:ドライ
走行車数:14台(イ
ベントレース参加仕様の物が多かった様子)
事故が起きた場所
いわゆるモスSコーナー。3コーナーから5コーナーに連続する高速S字
上記コース図は事故後改修された物で事故当時は2コーナーのモーターサイクル
シケインは無し。
原告が挙げた監視体制の不備
モスSコーナー入り口から出口へかけての4〜6番ポストが
無人だった
事故時の時系列(裁判記録から双方の主張と証拠などから抜粋)
09:03:** 3コーナー(モスS1個目)を事故原因となる車両がオイルを噴霧しながら通過
09:03:** 最初の転倒。進行方向右へコースを外れクラッシュパッドに跳ね返されコース内へ戻る。またこの際にクラッシュパッドも大きく飛ばされコース内へ
09:04:** 7番ポスト監視員から3番ポストへ黄旗2本
掲示の指示
09:04:** 2台目の転倒。1台目と同様にコース内へ
09:04:** コン
トロールタワーから3番ポストへオイルフラッグ
掲示の指示
09:04:** ホームストレート上でレッドシグナル
09:04:** 3台目、4台目が転倒。コース上に残っていた車両を巻き込みコース外へ
09:04:** 5台目の転倒
秒に関しては双方主張にかなりの誤差があるので伏せますが、シーケンス的このタイミングになっています。それぞれの間隔は3〜10秒内で約1分間の出来事です。あと2台転倒していますが軽微かつ事故の大筋には影響ないものだったので訴外となっています。
また2台目以降は黄旗
掲示を受け減速していながらも転倒しています。それほど広範囲にオイルは噴霧されていたと言うことでしょう。
目まぐるしく変わる状況に特に3番ポストは大混乱だったろうと想像するのですが、初手から和解条項の「運営会社には旗の不
掲示に関する義務違反がある」に相当していまるように思います。コース上に転倒車両とクラッシュパッドがあるのに
赤旗掲示してません。
またそれぞれの旗の
掲示の指示を出したとのコース側主張ですが、走行動画の証拠によって実際に
掲示されるまでに相当な時間を要していることが確認されました。3、4台目が確実に目視できたのは黄旗2本でオイルフラッグすら見てない可能性が示唆されていました。
またコース監視員、コー
スカメラ監視員ともにオイルを噴霧した車両の走行を把握していなかったことも明らかにされていました。
コースを走ったことがある者としての私見
当時の2コーナー(事故現場の1つ前のコーナー)は内側の丘に遮られ完全に
ブラインドコーナーになっていました。2コーナー進入前にモスS(事故現場)の状況をライダー自身が把握することは不可能です。
また2コーナーを立ち上がってもコン
クリートウォールとクラッシュパッドに遮られることと微妙に変化する斜度によってモスS自体の一部とその先のアトウッドコーナーは死角になっています。
それらの視覚の条件と2輪にとっては最低限を満たしていないように感じられるランオフエリアと相まって2コーナー以後は自分にとっては危険を感じる
区間でした。
次にポストで振られる旗はどのタイミングなら見えるか追うと、3番ポストの旗を確認するには1コーナーを立ち上がってアドバンブリッジ手前付近からになりますが、微妙に走行ラインを維持するための視線から外れているという印象もあります。
おおよそのタイミングとしてコン
トロールライン通過から6秒で1コーナー立ち上がりライン、10秒でアドバンブリッジ、14秒で2コーナー立ち上がりライン。コーナー立ち上がりラインに入るともうポストは完全に視界外ですのでポストで振られている旗を確認できるのは5秒弱ほどではないかと思います。
まあ、それでも3番ポストの旗は自分の経験としては「振られていれば確実に気づく」です。実際にこの事故においても2台目の転倒車以降はその度合いに差はありますが減速しています。
そして2コーナーを立ち上がって次に視界に入るポストは4番、次いで5番(事故現場直近ポスト)ですがそのいずれも事故時は
無人です。有人であった7番ポストはこの時点では視界外で視認できるのは事故現場を過ぎてからです。
各ポストからの視野と監視カメラについての私見
次にポストから確認できる範囲です。実際に自分はポストからの視野は知りませんが、3番ポストからはこの事故現場を目視できないのではないかと思います。旗の
掲示の指示を7番ポストとコン
トロールタワーから受けそれに従ったとすることからもそれが伺えます。
また7番ポスト人員はオイル噴霧車両を把握できませんでした。著しいオイルの噴霧があったのは3コーナーから4コーナーにかけてで7番ポストからは300〜500mの距離があり目視することは困難だと思います。
www.sony.jp
次に監視カメラです。事故の3〜4年前から段階的に設置され2016年ごろに事故時の体制になったようです。
今回の事故の証拠の画像としても監視カメラでの記録は機能していました。ポスト人員が確認できなかったオイルを噴霧する車両も映像として残っていました。ところがその画面を前にしてリアルタイムではアクションを起こすことはできませんでした。
また、24のモニターに対してそれを監視する者は一人だったことが明らかになっています。
見落とすなとするには酷だとも思いますが人の目の数が少なかったのは事実でしょう。
責任の所在
事故の原因となった車両を運転および整備した方は業務上過失致死傷罪で略式起訴され罰金70万円の略式命令を受けました。
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岡山県美作市滝宮の岡山国際サーキットで2017年、練習走行中のオートバイ7台が転倒、7人が死傷した事故で、津山区検は4日までに、運転していたオートバイからオイル漏れを起こし事故を誘発したとして、業務上過失致死傷罪で高知市、バイクショップ経営の男性(50)を略式起訴。津山簡裁は罰金70万円の略式命令を出した。命令は昨年12月23日付。
起訴状などでは17年4月24日、整備不良でコースにオイルを漏らして後続車を転倒させ、男性2人=当時38歳と42歳=を死亡、男性3人=当時24~50歳=に重傷を負わせたとされる。原動機とオイルタンクをつなぐ配管を誤った箇所に取り付けていたという。
事故を巡り、サーキットの安全管理に不備があったとして、遺族らが運営会社(美作市)などに損害賠償を求める訴訟を起こし、昨年12月に和解が成立した。
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酷な言い方ですが専門であるにも関わらず稚拙な整備状況であることも含め責任の重心はこの方にあると私は断じます。しかし、全国的には報道もありませんでしたが遺族や怪我をされた方への謝罪があったこと、略式命令を受けその罰金を支払っていることなどから十分罪は償ったとしていいでしょう。
一方、サーキット側は現状では謝罪はなく提訴当時はサーキット側への責任はないものとして争いました。
snsなどでも大上段に構える人が多かった「スポーツ走行時には事故があった場合サーキット側を訴えない旨の念書に署名するので提訴は無効」という意見ですが、それが有効となるのはサーキット側が安全管理の義務を全うした場合に限ります。裁判でもサーキット側はこの主張をしましたが過去の
判例によってあっさり却下されていました。
その安全管理義務については、ポストから目視できない箇所が生じていることが指摘され、サーキット側はレースなど興行時にはポスト人員を用意する規定があるがスポーツ走行はレースではないのでその規定には当たらないと主張していました。いくらなんでもこれは無理筋です。
我々コース利用者は何を根拠として安全に走行すればいいのか?
事実関係に関しては裁判では
判例、証拠、証言によってサーキット側の主張、反論が一つづつ退けられ原告側の主張がほぼ全面的に通っています。また安全管理義務に関する責任も負っていて事故当時はそれを満たしていなかったという結論が導かれました。
原告が本当に求めていたもの
伝聞ですがコース改修と謝罪があれば遺族らは訴えることはなかったと聞いています。また提訴後の報道で遺族が取材に答える形で「金額は問題としない。コース改修と安全が確保される運営がされるなら即和解する」という趣旨の発言もされていました。
サーキット側は提訴から1年半後2コーナーに
シケインを設けモスSの通過速度を大きく落とし、またモスS2個目のランオフエリアを拡大しました。
加速状態でモスSを通過することから危険度は変わらないのではないかという意見や、実際に必要なランオフエリアは拡大されていないなどの意見もありますが、まずは安全性確保の一歩として良いのではないでしょうか。
また、貸切の走行会においても以前は
無人だった5番ポストに人員が配置されていることを確認しています。
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この事故に関して見るに耐えない誹謗中傷が原告、被害者の方にされました。私はその主へなんの感想も関心も持ちません。表現するのは自由です。ただ良心と法の下に現実は進むだけです。
誰も精神的にも物理的に傷付かず安全にサーキット走行を楽しめるべきだと考えます。