CRキャブとはなんぞ?
いわゆる旧CR、もしくはティクラー付きのCR
そもそもCRキャブとは何か。オリジナルはアマルのフロートチャンバー一体式のものですかね。始動のための機構をベンチュリー内のバタフライバルブによる吸気制限でなくティクラーによって燃料を多く供給するものなどとして、ベンチュリー内の吸気の流れに抵抗を少なくした「スムースボアキャブレター」(長い)の1種です。
元々は名無しのゴンベでした。ケーヒン内での呼称はあったのでしょうが部品としてケーヒンに発注したバイクメーカーは単なる品番として扱っています。
そのバイクメーカーはホンダで、そのキャブレターが装着されていたバイクは市販レーサーのCRシリーズです
後ろのA1Rも気になりますが、CR93。好きなんですよね。80年代半ばにたぶん歴史上最も値が下がり「買わない?」と話を持ちかけられたことがあります。
(悪事の限りを尽くしてでも買えばよかった)
いやいやバイク本体じゃなく、このバイクについているキャブのこと。
何が言いたいのかというと、市販レーサーのCRについているキャブだからCRキャブ。ということです。
市販レーサーの部品なのでそれなりの手順を踏めば一般人でも買えました。そしてプロダクションレーサー(と好き者の公道仕様車)に使われ始め、さらにホンダ自身がプロダクションレーサーのパーツとして売り始めます。いわゆるY部品ですね。
CS90用のY部品のキャブが上の写真のCR93のキャブのボアアップ版です。「CS90用のY部品のキャブ」は長いので「CR用キャブ」→「CRキャブ」に。
すこし時代が下って60年代末、メーカー自身がCRキャブの名を使い始めます。それを決定したのはケーヒンだったのかホンダ(RSC)だったのかわかりませんが、とにかくキャブレター単体に「CR+対応する排気量」の名を与えます。CS90用なら「CR90」、CB350用なら「CR350」、CB750four用は「CR750」、4輪のS600、S800、ホンダ1300用もありました。
さらにホンダ以外のエンジンをチューンするコンストラクター向けにも供給されはじめ、目立つところではZ900系用に「CR900」がリリースされます。
また、特に名称も与えられない特注品も多く存在したようです。鋳型が砂と思われるもの、ワークスもしくは有力コンストラクター向けと思われるマグネシウムボディの物、ティクラーの無いもの、SJ取り付けのスレッドがなく穴が開いてるだけのもの、シリンダヘッド側のベンチュリーが真円から横長楕円に変化するもの。プロトタイプなのか特注品なのか、実に多くのタイプが存在します。生粋のレーシングパーツゆえそのマシンの能力を発揮するためには手間を惜しまなかったのでしょうね。
某オークションに出品されていたマグのCR750。落札価格は100くらいまで行ってましたねぇ…
今は「旧CRキャブ」と呼ばれることの方が多いですかね。自分が若い頃は「ティクラー付きの方」という呼び方でした
とまあ、オリジナルのCRキャブレターの話はこの辺りで中締め。キリないですもんね。上の写真のマグのCR750なんか情報量多すぎて本1冊くらい費やすくらいのネタが詰まってます
じゃあCR-Specialって何よ?
一言で言ってしまうと、特定の車種とその仕様に最適化されていた「旧CR」を汎用化したもの。
どっちかいうと「Special」だったものが「General」になったということですね。
でも名前はSpecial。おまえ、言うてることとやってることが真逆やんけ というのは置いといて。
スピゴット交換式として多車種対応化、自社製CVキャブとの部品と鋳型の共通化、スターター機構の高効率化、多連としたときの組み立て精度を出すための設計などなど。
旧CRとは外見も別物になり初めて見た頃は「なんか変なの」と思っていましたがさすがに35年以上たつと見慣れました。
これもオークションに出品されていたもの。ごく初期のプロトタイプ的ボディ鋳型のものです
これは樹脂製フロートですが真鍮製もありました。また乳白色フロートなども目にしました。この写真のCR-Sは目立つところでは量産タイプのCR-Sには開いているパイロットスクリュー用のザグリがないですね。この時期はロットごとに目まぐるしく仕様が変わったんじゃないかと思います。この写真のプロトタイプと思しきものもそう言う頃に有力コンストラクターが予備として保管していたものが巡り巡ってという個体でしょうか。ストーリーを想像すると面白いですね。
さて正式にリリースされると、4気筒用の他にも2スト用、シングルエンジン用、ミドルクラス用、4輪向けなどがコンストラクターを通じてリリースされました。
これらはリリースされた時期と存在が確認された時期と照らし合わせると、おそらくCR-Sの企画段階から挙げられていたのでしょう。いかにして多種のエンジンに対応させる仕様とするかというのはCR-S開発の大きなテーマだったのだろうと思います。
時期的には4輪の世界ではインジェクション化が進み、キャブレターの世界は公道向けはCVタイプが最適という結論になり、競技向けはライバルメーカーもケーヒン自身もフラットバルブタイプの投入に向けて開発を進めている中、未来のためにシェアを獲得しようとしたのでしょうか。
やや遅れてミクニがフラットバルブキャブレターを競技パーツとしてリリースしますが「ピーキーすぎてお前にゃ無理」な特性だったのと汎用性がなかったためにシェア獲得には至りませんでした。
そして、丸ピストンバルブゆえの比較的穏やかな特性と開発時からの汎用性を持たせた設計、部品供給の良さなどで80年代半ばにCR-Sはリプレイスキャブの代名詞的な存在になりました。
そのころ俺は!
自分はその頃、GPz400F改520ccにCR-S26を取り付け、知人のシングルレーサーのラージボディのCR-Sをいじり倒していました。
汎用性とか穏やかな特性とか書きましたけど、使ってる本人は悪戦苦闘の日々でしたね。バックファイアでキャブが吹っ飛ぶという笑えない事が起きても夜中のテンションで爆笑したりしてました(あほ
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